アメリカ・AV業界のセーフセックス問題:物議を醸した"コンドーム法"の内幕に迫る

Ela Darling

カリフォルニア州全体でアダルトビデオでのコンドームの使用を義務付けることで、ポルノ俳優の性病感染の拡大に歯止めをかけることができると支持者が主張した法律を、多くのポルノスターたちが反対していたのはなぜか?その内幕に迫る。

30歳のポルノスター、エラ・ダーリンは、カリフォルニア州法プロポジション60に対して最も強く反対を主張した人物の一人だ。プロポジション60は、AV業界でのより安全なセックスを支持する新たな規制法である。細身の長身で金髪、そして米国人らしい元気なダーリンは、これまでに200本以上のアダルトビデオに出演してきた。

テキサス州出身の彼女は、大学院を卒業した後、図書館司書として働いた。しかし、その生活に退屈を覚え、ボンデージヌード写真撮影会に参加するようになった彼女は、撮影会を楽しんでいる自分に気づいたという。大金までも稼ぐことができたため、ダーリンはフルタイムのAV女優になろうとカリフォルニアに引っ越した。

現在、Cam4VRの代表としてアダルトVRコミュニティの主要な代弁者の一人となったダーリンは、プロポジション60が、業界関係者以外がアダルトビデオ出演者を被害者として見なし、出演者の意見を無視し業界を規制しようとする釈然としない新たな法律だと考えていた。

「力のある酷いプロデューサーから守られるべき、傷ついてダメージを受けた人間だということをほのめかし、恩着せがましい救済の言葉が並んでるの」。こう彼女は言った。「でも、自分たちを一番守ることができるのは、私たち自身だから」

米国のアダルトビデオの大半が、今もなおカリフォルニア州で制作されているため、9月15日付けのロサンゼルス・タイムズ紙の世論調査で、55%のカリフォルニア州の住人が支持したプロポジション60は、10億ドル規模のAV産業、そしてモダンなポルノのあり方に大打撃を与えかねなかった。

ダーリンは、プロポジション60が成立した場合、ポルノ俳優が新たなレベルの被害を受ける可能性と、カリフォルニア州からAV産業が撤退する可能性があると警告した。

その一方で、公衆環境衛生擁護者は、ポルノ俳優間の性感染症(STD)の感染率の高さこそが、カリフォルニア州がアダルトビデオの撮影の規制に踏み切るべきであることを意味していると主張していた。

70年代以降、ロサンゼルス郡に位置するサンフェルナンド・バレーは、10億ドル規模の米国のAV産業のホームとなっている。また、89年のカリフォルニア州の訴訟結果を受けて、州全土でアダルトビデオを撮影することは合法であると考えられてきた。しかし、その法律上のステータスにかかわらず、これまでAV産業が州や連邦の規制の対象となることはほとんどなかった。

しかし2003年に、ポルノ俳優の健康リスクを浮き彫りにする記事をロサンゼルス・タイムズ紙が取り上げると、多くの公衆衛生のコミュニティが、AV業界でのSTDの感染拡大を防ぐために動き始めた。白熱した政治闘争に続き、2012年にはロサンゼルス郡での投票で、アダルトビデオでのコンドームの装着と撮影の登録の義務化が明確に記載された法律、メジャーBが可決された。公衆環境衛生擁護グループであるエイズ・ヘルスケア・ファンデーション(AHF)が後援し、同法律ではロサンゼルス郡にその規則の実施責任が課せられた。

11月にカリフォルニア州で州投票が行われたプロポジション60は、メジャーBを州全体の規制にするというものだ。AHFはこの新たな法律で、プロデューサーが撮影開始時に州のヘルス・ライセンスを取得することを義務化した。また、アダルトビデオのプロデューサーは、出演者がSTD対策として受ける検査、予防接種、健康診断で発生する費用を全額負担することが求められる。そして最も物議を醸していたルールは、カリフォルニア州の住人であれば誰でも、コンドーム未使用の撮影が行われた場合、アダルトビデオのプロデュサー、制作会社、販売会社を相手に訴訟を起こすことができるというものだ。

めったに報道で扱われることはないが、実は米国ではアダルトビデオの撮影におけるコンドームの使用は、すでに義務付けられている。労働環境の安全を監視するカリフォルニア州労働安全衛生庁(Cal/OSHA)は、アダルトビデオの制作において血液由来病原体から出演者を守るために、コンドームの使用が必須であることが92年の法律で定められていると繰り返し主張してきた。しかし、この血液由来病原体に関する法律がこれまでに実施されることは、ほとんどなかった。Cal/OSHAの広報担当者によると、2004年以降で立ち入り検査が実施されたのはたった40回で、コンドーム未使用のために49の召喚状が発行されたという。

つまりプロポジション60は、次善策的な法律だと考えることができるだろう。Cal/OSHAが92年の法律を実施することがほぼなかったために、プロポジション60は、AHFや他の民間団体にコンドーム未使用の撮影を行ったプロデューサー、制作会社、販売会社に対して訴訟を起こすことを認めたのだ。当然のことながら、多くのポルノ俳優がAHFに憤慨し、規制案に対し異議を唱えていた。その一方で支持者は、AV業界には労働者保護のための規則を整備する期間がこれまでに数十年あったとし、プロポジション60が常識的な方策であると主張した。

プロポジション60は、政府が守るべき対象を逆に傷つけることになる例であるとダーリンは考えていた。彼女は労働組合と話し合い、民主党議員に陳情を行い、またカリフォルニア州の共和党といった予想外の支持者から支援を得てきた。ポルノ俳優にとっては、プロポジション60がない方が良いというのが彼女の考えだった。「(AHFは)業界のことをよく知らないのに私たちを守ろうとする団体で、やってることが私たちを大いに脅かすということを全く分かってない」

これに対して、AHFの広報担当であるゲド・ケンスリーは、「ゼロからはじめて、(92年の法律に)従った後に、改正や変更について話しましょう」と言った。

しかしダーリンは、プロポジション60の意図しない結果は、破壊的なものになると考えていた。規則案には、州の住人であれば誰でもプロデューサー、制作会社、販売会社に対して訴訟を起こすことができるとあった。これに対して、エラ・ダーリンという芸名でAV女優とプロデューサー活動をする彼女は、訴訟で実名と住所が世間に公表される可能性を懸念していた。

そして彼女は特に、ストーカーや度を超えたファンが訴訟を起こし、彼女の個人情報を入手するという可能性に不安を感じていた。「私が制作した、彼氏とのコンドームなしでセックスする作品を見た人が私を訴えて、私の個人情報の全てにアクセスできるなんて、恐ろしいわ」

*フリースピーチ連合のプロポジション60反対キャンペーン動画の撮影を行う、AV女優アナ・フォックス(2016年9月)。

「世間の人は、私たちがたくさん稼いでると思ってるけど、AVはブルーカラーの仕事みたいなものよ」。こうダーリンは説明した。「私たちにはボディガードを雇うお金なんてないし、セキュリティ対策をするお金もないわ。私たちは一般人なの。だから、この法律が私たちを傷つけようとする人たちに、住所を含めた個人情報にアクセスできる機会を与えるなんて、ゾッとするわ」

さらにダーリンは、14日に一度STD検査を受けなくてはいけないという業界の既存の検査システムが、STDの予防に効果的であり、そこに新しいルールを導入することは無意味だと指摘した。「私たちが採用してる検査ルールは、リスクを取り除くことに効果的よ」。こう彼女は言った。「感染してたら初期段階で見つけられるし、治療もすぐに受けることができるわ。だから私たちにとって、(STDが)大きな脅威っていうわけではないの」

他のプロポジション60の反対者は、新ルールによって、ポルノ俳優が仕事をすることが難しくなる可能性を指摘した。AV男優で、AV業界の問題を扱うフリースピーチ連合の事務局長を務めるエリック・ポール・ルーは、AV女優が撮影中にコンドームの摩擦について不満を言う状況が生まれていると話した。また彼は、コンドームの使用がAV男優の勃起継続を難しくしていると説明した。

「コンドームも必要だけど、他のものも必要。コンドームは最終手段であって、一番便りになるものでも、8時間の撮影に取り掛かる場合に一番便利なものでもない」

また彼は、ポルノ俳優がSTDの予防法として、HIV感染を予防するツルハダや抗生物質をコンドームの代わりに使用できるようにするべきだと主張した。「撮影をコントロールするのはポルノ俳優であるべきで、そうすることで罰せられるべきじゃない」

しかし、AHFの擁護・政策研究理事長を務めるアダム・コーエンなど、公衆環境衛生擁護者らは、アダルトビデオのプロデューサーには、自主規制する期間が数十年あったにもかかわらず、その取り組みから効果が見られないと主張した。

「自主規制することは業界に任せているんです」。こうコーエンは言った。「これは、タバコ業界に自主規制すること、銀行業界に自主規制することを求めるのと同じ。業界に任せるとどうなるか見てほしい」

ピアレビューデータは、ポルノ俳優のSTDの感染率が、一般市民に比べて高いことを示している。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の近年の研究では、ポルノ俳優の4人に1人がSTDに感染していることが分かっている。ロサンゼルス郡公衆衛生省によると、ロサンゼルス郡の一般市民に比べて、ポルノ俳優が淋病に感染するリスクは64倍、クラミジアに感染するリスクは34倍だという。公衆環境衛生擁護者は、1年以内に彼らの26%が再び感染するという研究結果が、AV業界の検査ルールが機能していないことを証明していると主張する。

過去10年間で、米国のポルノ俳優がエイズや梅毒などの検査で陽性結果を受け取った際は、フリースピーチ連合がAV業界全体のプロダクションの一時停止を宣言し、全ての撮影を中断させてきた。2016年にはアメリカ疾病管理センターが、2014年に撮影でポルノ男優から他の男優にエイズが感染したことを公表した。エイズ検査で陰性反応だった男優がコンドームなしで12人の男優と性行為を行った数日後に、症状が現れたため別の病院で検査したところ、エイズの陽性反応が出たという。そして、彼と撮影で性行為を行った12人の男優の中の1人も、その後陽性反応を受け取っている。

「STDを防ぐためにSTD検査を受けることは、妊娠を防ぐために妊娠検査を受けるようなもの」。こうコーエンは言った。

彼は、ポルノ俳優が検査に効果がないことを知らないことに加え、権力を握るプロデューサーに意見する手段を持っていないことを指摘した。また、コンドームの使用を義務付けず、出演者が撮影でSTDに感染した場合に責任逃れをしようとする非従順な雇用者に立ち向かう能力をポルノ俳優に身につけさせることが、法律の最終目標だと説明した。「Cal/OSHAが守ろうとしているのは、雇用者です」。こうコーエンは言った。「雇用者が過ちを犯した場合には苦情処理システムがあるのに、プロデューサーが過ちを犯した場合は、雇用者が苦情を言ってもCal/OSHAは調査に乗り出さないという状況です。雇用者の苦情が無視されないようにしたい。雇用者たちに釤プロデューサーに責任を取らせる方法を知っている釤と言えるようになってほしいのです」

コーエンとAHFは、撮影中にエイズに感染したと主張し、AV業界でのコンドームの使用を支持するデリック・バーツ、ロッド・デイリー、キャメロン・ベイをはじめとする元ポルノ俳優たちと緊密に連携している。ベイは、AV女優時代にコンドームの使用を求めないよう指示されたにもかかわらず、エイズ感染後に業界からサポートを得ることができなかったという。「業界が私を見放したように感じて、その状況に動揺しました。そして、私にできたのなら、彼らが他の人にも同じことをするのではないかと感じました」。こう彼女は、AV業界のブログMikeSouth.comで2014年7月に公開された手紙に綴っていた。

一方でフリースピーチ連合は、バーツ、デイリー、ベイが撮影でエイズに感染したのではないという姿勢を保っている。3人の当時の共演者の中でエイズの陽性反応が出た人がいないため、撮影以外の場で感染したに違いないというのが連合の主張だ。ベイの件に関してフリースピーチ連合のルーは、「バスの運転手がエイズになったということは、バスを運転することで感染したとは言えないでしょ」と話した。

ベイの手紙が掲載されたブログMikeSouth.comを運営する、ベテランAV男優で業界のプロデューサーであるマイク・サウスは、これまでにポルノ俳優から数多くのトラブル報告を受けてきたため、ポルノ俳優の健康と安全を守る正式な法律が必要であるとし、プロポジション60を支持していた。

「AV業界が僕たちを守るために何かをしているというなら、反対してたでしょう」。こう彼は言った。「でも、STDをコントロールしたりポルノ俳優の健康と安全を向上させるために、何らかのシステムを導入できる期間が20年もあったにもかかわらず、何もやってこなかった。だから、プロポジション60がAV業界の腰を上げさせるというなら、支持するよ」

しかし、プロポジション60が何も解決しない可能性もあった。プロポジション60が可決された場合、AV産業がカリフォルニア州から撤退する恐れ、Cal/OSHAが見つけることができない場所に身を潜める恐れがあった。そしてこの動きは、既に始まっている。メジャーBがロサンゼルス郡で可決されてから3年の間に、AVプロダクションに求められている許可証の数が94%減少した。当局は、プロデューサーが許可を求めなくなったことが理由だと考えている。「おそらく、多くのプロダクションが郡のすぐ外に引っ越したり、カリフォルニアから完全に撤退したのでしょう」。こうアダルトビデオの撮影の許可証を発行する機関であるFilmL.A.の調査分析専門家のエイドリアン・マクドナルドは言った。「そうでない場合、許可を取らないプロダクションが存在している可能性もあるでしょう」

それでもなお、ダーリンは業界がポルノ俳優を独自の方法で守ることを決意していると主張した。フリースピーチ連合は、Cal/OSHAと共にアダルトビデオの性質を考慮に入れた標準の策定に取り組んでいるという。また、ポルノ俳優の健康を守ることを目的とする業界団体であるポルノ俳優擁護委員会(APAC)は、ポルノ俳優の権利法をまとめた。そこには、ポルノ俳優が事前に何をするか把握する権利、特定の性行為を拒否する権利、6時間以上に及ぶ撮影の場合、軽食と水の提供を受ける権利の概要が記載されている。APACは、人種的不平等、業界全体の有色人種に対する資金格差への関心を高める取り組みも行っている。

「業界内で修正できることが確実にあるの」とダーリンは言った。「でも、それらが法律で修正されるという可能性はないわ」

最新情報:反対54%、賛成46%という結果、プロポジション60はカリフォルニア州で可決されなかった(AP通信)。

【引用元:ローリングストーン日本版】

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