映画『君の名は。』考 アニメはオタクから一般に定着 その裏で制作現場に歪み…

君の名は

2016(平成28)年のアニメを振り返ると、とにかくアニメ映画の強さが光った。8月に公開され、邦画歴代2位の興行収入を記録した映画「君の名は。」は言うに及ばず、「聲(こえ)の形」や「この世界の片隅に」など、名作揃いの1年に。「響け!ユーフォニアム2」などテレビの深夜アニメにも良作が並び、アニメの多様性を示した。その一方で、放送延期などアニメ制作現場の“歪み”が表面化した年でもあった。

■圧倒的な爽やかさ

正直に言うと、「君の名は。」は、今年一番公開を楽しみにしていた映画だった。以前、別の映画を劇場で見た際、「君の名は。」の予告に心ひかれたからだ。変に小難しそうだったり、暗そうだったり、キャスティングに無理がある映画が少なくない中、「君の名は。」はスクリーン一杯に「圧倒的な爽やかさ」が広がっていた。

実際に、公開初日に映画館に行ったところ、席がすべて埋まっていた。翌朝に再訪したが、すでに映画館には長蛇の列が。かろうじて空いていた深夜の最終上映に滑り込むのがやっとだった。そしてこの現象は、記者個人だけに起きた出来事ではなく、全国各地で起きていたのだった…。

「君の名は。」がなぜヒットしたかは、多くの有識者やマスコミ、アニメファンが分析を語っている。「先読みできない展開」「何度も見たくなる物語性の高さ」「エンターテインメント性の徹底」「新海誠監督が描く風景の美しさ」「今どきのキャラクターデザインと、RADWIMPSの音楽の良さ」「デートに誘いやすい」…。いずれも納得できる理由で、これら全てが相乗効果になり、今回の爆発的ヒットになったとみられる。公開初日から見られる映画館の数が多かったこと、SNSで発信する声の多さも、理由として大きいはずだ。

■ファンがネットでPR活動

「君の名は。」以後も、注目作の公開が続いた。9月公開の「聲の形」は、ヒロインが先天性の聴覚障害を持つ異色のアニメ。キャラクターはかわいらしく、描かれる風景は美しいが、「人とのコミュニケーションとは何か」という根源的な課題を終始のど元に突きつけられるような作品だ。

また、先の大戦の前後に、広島・呉で過ごした女性が主人公の「この世界の片隅に」(11月公開)も存在感を示した。こうの史代さんの原作漫画を、片渕須直監督が丁寧かつ繊細に映像化した。インターネットを通じて小口資金を広く募る「クラウドファンディング」という手法を使い制作費を集めた手法も異例で、出資したアニメファンや映像を見た人がSNSで自主的にPR活動を実施。公開当初は60館程度だったが、その後はどんどん数が増え続け、映画のヒットにネットの力が欠かせないことを改めて印象づけた。

このほか、4月公開の「ズートピア」(ディズニー)のクオリティの高さには衝撃を受けた。3DCGで描かれたキャラクターはスクリーンを自在に飛び跳ね、表情も豊か。ストーリーも練りに練られており、ディズニーの圧倒的な底力を痛感した。

■「オタク」はもはや死語?

近年、これまでアニメ映画の“壁”とされてきた、「興行収入20億円」の壁を打ち破るヒット作が相次いでいる。昨年でいうと「ラブライブ!The School Idol Movie」、今年だと「聲の形」などが当てはまる。

中でも異例ずくめなのが、「ガールズ&パンツァー 劇場版」だ。昨年11月の公開から1年以上にわたりロングラン上映され、ファンはネット上に愛のあるツイートを連発。東京都立川市の「立川シネマシティ」による“極上爆音上映”など、劇場側も「ガルパン愛」にあふれた企画を開催した。

「アニメ人気は一過性のブームではない。むしろ、アニメの“一般化”が進んでいると言えるのでは」。アニメなどコンテンツ市場のデータベース調査などを行うヒューマンメディア社の長谷川雅弘プロデューサーは、10月に開催された「アニメ産業レポート2016」刊行記念の執筆者セミナーで、このような指摘をしていた。

「アニメは“定着”したのだと思います。最近は、『オタク』という言葉が死語になりつつあるくらい、アニメが一般化しつつある。ライトユーザーが増えているとも言えます。業界も、(従来のように)コアファンが牽引(けんいん)しているのではなく、裾野が広がっているマーケットになっていると思います」(長谷川氏)

■深夜・地方発の進化続く

深夜アニメにも触れていきたい。昨年10月から今年3月まで放送された「おそ松さん」は、その後も女性ファンの間で好評を博し、今秋にはいわゆる「2・5次元ミュージカル」として舞台化。人気を博した。

4月スタートの「甲鉄城のカバネリ」は、キャラクターに“お化粧”を施すという作画上の工夫に驚かされた。夏開始の「ラブライブ!サンシャイン!!」は、漫画原作のアニメが多いなか、メディアミックス企画として存在感を発揮した。

秋開始の「3月のライオン」は、羽海野(うみの)チカさんの原作漫画のテイストを、新房昭之監督が上手く生かしたアニメ作りを実施。フィギュアスケートをテーマにした「ユーリ!!! on ICE」は、昨季の世界選手権を制した「世界女王」であるロシア人選手、エフゲニア・メドベージェワ選手もくぎ付けになるなど、世界各地にファンを広げている。

最近のアニメ界で特徴的なのが、地方を舞台とした「ご当地作品」の多さだ。今年も北から、「ふらいんぐうぃっち」(青森)、「ラブライブ!サンシャイン!!」「あまんちゅ!」(静岡)、「うどんの国の金色毛鞠」(香川)などが制作された。ロケの都合などで都会が舞台になりがちな実写ドラマとは異なり、ロケハンなど比較的少ない手間で地方の魅力的な景色を描けるのがアニメの良さだ。

「君の名は。」の岐阜・飛騨など、今年は改めて「聖地巡礼」が注目された。観光客の増加などメリットもある一方で、一部の心ないファンによる悪質な振るまいも問題になった。9月には一般社団法人「アニメツーリズム協会」(富野由悠季理事長)も発足し、全国の88カ所を“聖地”に選定した。「旅の恥は掻き捨て」にせず、常識を守った範囲内で聖地巡礼を楽しみたい。

■制作現場の負担は限界

アニメの存在感が増す一方で、アニメ業界が長年抱える“歪み”も、表面化しつつある。

日本動画協会がまとめた「アニメ産業レポート2016」によると、昨年のテレビアニメのタイトル数は前年比19本増の241本と、過去最多を更新。アニメ産業市場は成長を続けており、「第4次アニメブームが来た」とする声もある。

その一方で、制作本数の多さと、アニメに求められる品質の向上に伴い、制作現場のキャパシティは限界に達しつつある。今年は、放送休止や、一部のアニメで作画の質が明らかに落ちる「作画崩壊」、「総集編で穴埋め」などの対応に迫られる事態となった。

7月開始の「レガリア The Three Sacred Stars」は、「意図していたクオリティと相違がある」として、第4話で一度、放送休止に。10月開始の「ろんぐらいだぁす!」も、「制作スケジュールの遅れ」により、2度にわたり放送を延期。第11・12話は来年2月に順次放送・配信される予定だ。アニメ関係者の1人は、「国内のアニメ制作力は限界に達している」と明かす。

■記者が選ぶベスト3

以下、記者個人の2016年ベスト3と、その理由を挙げたい。

【3位】「君の名は。」(映画)

視聴後、ある種のトラウマのような感覚を残す作品を作り続けた新海監督の作品とは思えないほど、爽やかでエンタメ性にあふれている。同じような人は多いと思うが、「ほしのこえ」(平成14年)からリアルタイムで追ってきたため、今回の大ヒットをうれしく思うと同時に、「『俺たちの新海』が遠くに行ってしまう…」という不思議な気持ちを抱えている。中盤からの怒濤(どとう)の展開と、何度も見たくなる作中のこだわりが秀逸。

【2位】「響け!ユーフォニアム2」(深夜アニメ)

びっくりするほど毎回面白い。全国大会を目指す「吹奏楽部の青春」という一見ありふれたテーマを、各キャラクターの葛藤や欲望、打算、純粋さを繊細に描くことで、芸術へと昇華させている。作画の良さは言うに及ばず、ヒロイン・久美子役の黒沢ともよら声優陣の演技も素晴らしい。女子高生の音楽活動をテーマにした「けいおん!」や「ラブライブ!」を再放送したNHKには、今作の再放送を改めておすすめしたい。

【1位】「この世界の片隅に」(映画)

個人的に戦争ものは苦手なのだが、今作は例外。先輩記者から「素晴らしい」「最高だ!」と聞かされ、半信半疑で試写会に行ったが、その後は自分が「最高です!」と触れ回る側に回っていた。先の大戦の前後に生きたヒロイン、すずさんの一つ一つの所作やセリフにグッと来る。すずの声を務めた、のん(能年玲奈)の演技も、本人がそのまま降臨したかのようで素晴らしい。

【番外編】「戦国鳥獣戯画」(短編アニメ)

平安時代末期~鎌倉時代初期の作とみられる絵巻物「鳥獣戯画」風の動物たちがアニメとして動く意欲的な作品。この絵柄で、登場人物がナンセンスかつ現代風の会話をしているのがシュール極まりない。視聴できるエリアが限られているので、各種配信サイトなどで見るのもおすすめ。この作品や「オトナの一休さん」(NHKEテレ)のような、「歴史」や「芸術」をブラックユーモアで包むような作品は、もっと評価されるべきだと思う。

【引用元:産経新聞】

関連記事

コメントを残す

お問い合わせ | 運営者について