アメリカ新大統領ドナルド・トランプに「だまされた」私たち…過激発言は比喩? 和解宣言の意味とは

ドナルド・トランプ

私を含めて、多くのアメリカの、いや世界中のメディアや専門家の予想が外れた、そんな選挙だった。

では、我々は何を間違え、どうして読み間違えたのか、そのことを反省することから、今回の「トランプ勝利」という現象を読み解いてみたい。

(作家、ジャーナリスト・冷泉彰彦/WEBRONZA筆者)

大きく3点の「読み間違い」を強く感じている。
1つ目の読み間違いは、トランプ氏の主張を「文字通り受け止め」て「文字通り批判」してしまったという「間違い」だ。

それは、メディアもそうであるし、対立候補のヒラリー陣営もそうであった。

例えば、トランプ氏は「日本や中国が雇用を奪っている」から「関税をかけよ」とか「自由貿易協定は全て再交渉」ということを何度も言っている。

恐ろしいことに、その主張は一年半の選挙戦を通じて全くブレなかった。

だが、私を含めて多くの人間は、例えば日本批判に対して「現在は日本の自動車産業は現地生産を徹底していて、アメリカの雇用を生み出しこそすれ奪ってはいない」のだとして、「トランプ氏の日本批判は80年代との時代錯誤感がある」と批判し、これを放置していた。

また、不法移民の強制送還という主張も同じだ。
そんなことは、巨額の予算が必要だし、何よりも労働力として移民に依存している経済を傷つける、人道面も大いに問題がある、そんな「正論」からの批判で済ませていた。

問題は、こうした「トランプ一流の毒舌」は「比喩」(メタファー)、一種の「仕掛け」だったのではないかということだ。

それは、例えば「かつて誇りをもって製造業で働いていたが、今は斜陽になって企業年金が減額された」人々の鬱屈(うっくつ)した不満、あるいは自分の過去の栄光や名誉が否定されることへの反発といった感情を揺さぶり、それを受け止めるための比喩、あるいはそうしたネガティブな感情に働きかけ、自身のほうへ有利に誘導するための「仕掛け」だったのではないだろうか。

移民排斥にしても、実際に可能かどうかは別として、人生に様々な苦労を抱えている自分たちよりも、「違法に越境してきた」だけでなく「英語を話さずアメリカに融合しようとしない」移民たちの権利が優先されることへの反発があったのである。

そうした感情論自体、基本的には正しいとは言えない。
だが、トランプ氏が実は物事をわかった上で、比喩として言っていることに対して、正論から批判し、それだけでなく、トランプ支持者のことを「どうしようもない人々」と侮蔑するような発言までヒラリー陣営から飛び出した、そのことの意味について、大きなストーリーの全体として、我々を含めて多くの人間が読み間違ったのである。

2点目は、トランプ現象が現状不満層の反乱だとして、それを「白人のブルーカラー」が中心だという思い込みをしていたということだ。

出口調査によれば、実はそうではなくて、確かに白人男性が中心ではあるが、所得水準としては中から中の上、そして富裕層も多かったという。

例えば、今回の勝敗を決定づけた州の一つである、ペンシルベニアの場合、従来は「先に票が開く農業・酪農地帯」が共和党優勢で開票が進んでいって、最後に都市部の圧倒的な民主票で逆転というパターンだったのが、最後の方でトランプ票が怒涛のように出てきた。

つまり都市圏や近郊圏の中流層からトランプ票が従来と違う形で出ている。

この点に関しては、オハイオの知事で、大統領候補として善戦したジョン・ケーシックが言っていたのだが、トランプ支持者は「決して貧しくはない」のだという指摘があった。

つまり、本当に貧しかったら再分配を期待して民主党に行くというのだ。

そうではなくて、自分は仕事はある。
だが、今度クビになったら「次はない」とか、自分の周囲に失業した人がいる、あるいは自分の属している産業が社会から尊敬されていないといった「今は困ってはいないが、名誉や希望が失われている人」が核になっているという。

その見立てはデータが証明したし、正にケーシックの熟知しているオハイオの住民はケーシックを尊敬しつつも、ケーシックが批判し続けたトランプ氏を今回の選挙では大差で勝たせている。

そう考えてみると、前々回の2008年にオバマが大勝した選挙においても、黒人票は勿論、圧倒的な支持を示したが、白人の中流層もそのようなオバマの「新鮮さ」に引き寄せられて投票している。

今回もそれと同じであって、ある種の「トレンドに敏感」であったり、その時代状況における「自分なりの正義感」から、今回はトランプ氏に入れたという層が「動いた」のだろう。

3つ目はデータに対する姿勢だ。
マーケティングの業界には、「アンケートだけでは、新製品が売れるかどうかの判断をしてはいけない」という法則がある。

それは、消費者は「好きか?」とか「買うか?」といった質問に対しては無責任に答えるが、その回答の行動と、実際に自分のカネで買うかという消費行動は異なるからだ。

だから、多くの業界では、一部地域でテスト販売を行ってから全国に拡大するなどの手法が取られる。
ちなみに、そうした「ビジネスの知恵」を生んだのはアメリカだ。

選挙の世論調査も同様なのかもしれない。
電話や対面調査では「トランプ支持」を胸を張って言うのは「ちょっと抵抗がある」ような人も、カーテンやボックスに囲まれた「投票の秘密」が守られる場では、「トランプ」に入れてしまうということがあったのだろう。

中には、妻には「ちゃんとヒラリーに入れるよ」と言っておきながら、夫が土壇場で投票所では「トランプに変えた」と事後に告白して夫婦喧嘩になったという話もアチコチから聞こえてきている。

それから、過去の共和党の基礎票、民主党の基礎票という考え方、あるいは当初はトランプを不謹慎だと嫌っていた宗教保守派、あるいは一時期までは圧倒的に低かった女性からの支持というものが、予想を裏切る形でトランプ氏に流れたということもある。

例えば、終盤になって猛烈な勢いで双方が流した「ネガティブ・キャンペーン」のTVコマーシャルにしても、トランプ側のものは「いつものネタとしてのヒラリー批判」に留まっていたのに対して、ヒラリー陣営のものは「敵意丸出しの露骨な批判」が、これでもかと展開されており、結果的に逆効果になったということも可能性としてはあるだろう。

いずれにしても、今回の選挙戦では世論調査のあり方を中心に、選挙におけるデータの使い方、見方について大多数が「読み違え」をしたということは大きい。

反対に、終盤の選挙戦で、多い時には一日4州というペースで、激戦となっている「スイング・ステート」を飛び回ったトランプ陣営の行動には、独自の「選挙テクノロジー」が使われた可能性があり、今後どこかの時点で注目がされていくことであろう。

一つだけ救いがあるとすれば、トランプ氏自身が「勝利宣言」においては、比喩ではなくハッキリとした言葉で「和解」を呼びかけたことだ。

ヒラリー氏も、当夜には敗北宣言が間に合わなかったようだが、一夜明けた午前中のうちに見事なスピーチをして、相手の勝利を讃えている。

トランプ候補が「かき集めた」不満感情や、現状への怒りは、下手をすれば破壊衝動や、より深刻な対立を招きかねないものであった。

だが、仮にこの勝利宣言にあったような、和解と協力ということが進んでいって、それこそレーガン政権のようにブレーンを使いこなした政治ができれば、アメリカの分断や低迷は回避できるかもしれない。
これからの政権移行プロセスを慎重に見守りたい。

冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家、ジャーナリスト。ニュージャージー州在住。
プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。

東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。
福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

著書に『「反米」日本の正体』(文春新書)、『「上から目線」の時代』『「関係の空気」「場の空気」』(いずれも講談社現代新書)など。

【引用元:withnews】

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