能年玲奈「干されて改名」の全真相 ~国民的アイドルはなぜ消えた? 「ザ芸能界 TVが映さない真実」

のん(能年玲奈)

誰もが「彼女を見たい」と思っているのに、消えた国民的アイドル。数々の噂や憶測が流れたが、真実はいったいどこにあるのか――所属事務所と能年サイドの双方が本誌に述べる言い分とは。 <取材・文/田崎健太 ノンフィクション作家>

(本稿は『週刊現代』誌上で連載中の<ザ芸能界>の転載記事です。)

■「月給5万円」は本当か

NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で主演を務め、一躍、日本中の人気を集めた能年玲奈。彼女が表舞台からほとんど姿を消して久しい。

11月12日公開のアニメ映画『この世界の片隅に』に声優として出演しているが、動く能年をテレビで見る機会は皆無だ。

彼女が「干された」背景について口火を切ったのは「週刊文春」(’15年5月7・14日号)だった。同誌は〈国民的アイドル女優はなぜ消えたのか? 能年玲奈 本誌直撃に悲痛な叫び「私は仕事がしたい」〉という記事で、能年の露出が激減した理由を、所属事務所との確執にあると報じた。

給料は5万円。『あまちゃん』撮影中、経費精算が追いつかず、持ち金がなくなってしまった。「寮の乾燥機が壊れ、明日のパンツがない」と、当時演技指導を担当していた滝沢充子へ深夜に電話。

滝沢が「コンビニで買えばいい」と言うと、「財布には200円しかない」と能年は答えた、と書いている。能年がこの滝沢に「洗脳」され、独立をそそのかされているという報道もあった。

さらに今年7月、能年は「能年玲奈」から「のん」に改名。「能年玲奈」は本名であるにもかかわらず、所属事務所の許可なしに使用できないという「警告書」が送られていたとも報じられている。

「悪徳芸能事務所」「パンツを買う金もない」「洗脳」「本名を使えない」――。この物語を貫いているのは、芸能界とは魑魅魍魎の人々が跋扈する「げに恐ろしい世界である」という軸だ。

しかし芸能プロダクションもまた、日本という法治国家の中で商行為を営む民間企業である。芸能界だけが、特殊な「小宇宙」として存在しうるはずもない。

人々の気持ちに突き刺さる、あるいは心を逆撫でする分かりやすいストーリーは、時に物事の本質を覆い隠してしまう。

今回、ことの真相を明らかにするべく、能年の所属事務所であった『レプロエンタテインメント』、そして彼女の代理人である星野隆宏弁護士双方に、事実関係を確認し、法的な根拠に基づく取材を行うことにした。

* * *

まずは、「月給5万円」についてレプロの担当者に質した。

「これは本当でもあり、嘘でもあります。彼女は『あまちゃん』で活躍する以前の無名の頃から、都内の高級マンションの部屋に住んでいました。この部屋はレプロが寮として使っており、若いタレント4~5人で住んでいて、寮母さんがいて食事を作っている。

生活全ての面倒を見て、レッスン代、交通費などの関連費用も全部こちらで持った上で、さらに小遣いが5万円ということです。能年にはその後、寮から出て一人暮らしができる高級マンションを用意しています」

能年は’93年7月、兵庫県神崎郡神河町で生まれている。中学生時代の’06年に雑誌『nicola』のオーディションでグランプリとなり、レプロと契約。当初は兵庫県から東京まで通っていたが、中学卒業後に上京した。

「中学から高校に入るときが、一つのタイミングなんです。高校の3年間を地方で過ごすと、(女優やタレントとして)終わってしまいます。みんな(それなりに完成するまでに)5~6年はかかる。高校卒業からだと、23~24歳。

そうなると、よほどきちんとした芝居が出来るとか、大人の魅力があるとか、何か武器が必要になる。若さを武器に使うには、高校に上がった段階からレッスンを始めなければならない」
■所属事務所は「東京の親」

15歳で地方から上京し、芸能活動に注力することは、人生における他の選択肢を失うということでもある。

「中には教育熱心な家庭の子もいます。『このまま行けば、地元の立派な県立高校に行ける』と先生から言われた。どこまで本気なんですか、という気持ちが親御さんにもある。じゃあ、複数年契約で長期的に面倒を見ます、うちに預けてください、という話をしなければならない。

寮として、わざわざ高級マンションの高い家賃を払っているのは、親御さんに安心してもらうためです。『見に来てください』と部屋を案内して、寮母さんも紹介する。ここでみんなで切磋琢磨してください。すぐ芽は出ないかもしれませんが、早く一人暮らしをしたいとか、そういう思いも原動力にしてください、と」

能年は比較的、集団生活が苦手だった。しかし、そういう子だからこそ、芸能界に向いていると判断したのだという。

「当社の本間(憲・社長)の考えはこうです。この世界は少し変わったくらいの子のほうが売れる。なぜなら、人と違うからこそみんなが興味を示してくれる。お行儀がいいだけの子なんて面白みに欠ける。そういう子は普通の人生を歩んだほうがいい。芸能界というのはそうじゃない人の受け入れ先なんだから、と」

もっとも、本間も能年の才能に確信があったわけではない。ただ「この子は化けたら凄いことになる。気をつけて育てよう」と担当マネージャーと話していたという。

「ティーンエージャーから契約するというのは、我々が東京の親になるということ。つまり、躾や生活面の指導も親に代わって日常的にしていかなければならない。親も、いつも褒めるだけでは駄目ですよね。

能年のように寮のルールを守らず部屋を汚したり、きちんと期日を守って精算ができない子には、厳しく、時にはあえて突き放さなければならないこともある」

能年はどちらかというと、成長の遅い部類に入った。高校2年生、’10年5月で『nicola』のモデルを卒業した後、しばらくくすぶっていた。

そんな中、レプロは能年と’11年6月、3年契約を結び直している。

女優は、プロのアスリート、あるいは芸術家などと同じく、常人にはない才能を評価される「個人事業主」である。ただ、彼らと比べると、世間に認められるまでの助走期間に、他人の助けがあるかないかが成功を左右する要因となる。平たく言えば、「事務所の力」が大きな意味を持つ。

能年の顔が一般的に知られるようになったのは、’12年3月、『カルピスウォーター』の第11代CMキャラクターに起用されてからだ。

「うちの事務所には、長谷川京子、新垣結衣、川島海荷などで、長年信頼関係を作ってきた(広告の)クライアントがいます。能年の場合も、社長の本間が『どうしても彼女を売るぞ』と、代理店に頭を下げて使ってもらった。こちらから頼んで使ってもらっているので、CM契約料は他と比べると安かったです」

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■能年の弁護士が初めて語る

そして’12年4月、能年は『あまちゃん』のオーディションで1953人の中から主演に選ばれた。彼女はこのドラマで、誰もが知る女優となった。

レプロ担当者によると、『あまちゃん』の放送中、能年の「給料」は20万円に増額。加えて計200万円以上のボーナスが支払われた。翌年にも、実績を考慮して計1000万円以上の報酬を支給したという。

「寮での食費やレッスン代というのは、まとめて払っているので、能年1人に幾ら掛かったかははっきりとしません。ただ、彼女に対する投資として、スタッフの人件費、時間と労力、領収書が残っているような数値化できるものを含め数千万円は下らない。そこに、ようやく『あまちゃん』で人気が出た。7~8年かけて投資したものをこれから回収するぞ、と意気込んでいました」

ところが――。

’14年1月、映画『ホットロード』の撮影が終わると、能年は担当マネージャーに「事務所を辞めたい」と言い出した。能年とレプロとの3年契約はこの年の6月に終了することになっていた。

4月、能年はレプロ社長の本間と面談をしている。しかし、「辞めたい」の一点張りで話にならなかった、という。

レプロ側は、話し合いができる状態ではないと判断し、彼女と落ち着いて交渉する機会を窺った。

「精神的に波のあるタレントは、いつ話をするかも大切です。まずは入っている仕事を消化させること。本来は先に信頼関係の修復をしなければならないんですが、その弾みで仕事を飛ばしてしまうと、取引先に迷惑をかけることになる。

我々がそれまでに提案していた複数の仕事の中で、唯一彼女が受けた映画『海月姫』の撮影が終わった段階で話し合いをすることになった」

しかし、この話し合いも決裂した。

契約書には、「契約期間終了後、一度は事務所側から契約延長を請求できる」という条項が入っていた。その新たな契約期間は最長3年間で、具体的な期間は当事者が話し合いで決めると定められている。能年側は弁護士を立てて交渉し、2年間の契約延長で合意した。

レプロ側が契約を延長したのは、能年を説得する時間を取るためだったという。

一方、今回取材に応じた、虎ノ門ヒルズに入居する外資系法律事務所の弁護士・星野隆宏が、能年の代理人を引き受けたのは’14年の9月頃だ。そのため、星野は延長交渉に関わっていない。

星野は裁判官を経て、’87年に弁護士登録。商事紛争を専門としている。これまで能年の件について、全く取材を受けてこなかった。

「プロダクションとの契約期間中に紛議内容を明らかにすることは、彼女の芸能活動に差し障りがあるので発言は控えていた。しかし、言わなければならないこともある」

と前置きした上で、こう説明する。

「我々が関わったのは、すでにトラブルになった後。彼女の依頼は、レプロとの交渉と、その後出て来るであろう法律問題についてアドバイスしてくれというものでした。

こちらは法律家なので、契約内容に問題はあるにせよ、こちらから違反してはいけない、あくまでも契約に則ってやろうという話をしました。

のん(能年)はタレント活動の継続とレプロとの関係修復を望んでいたので、問題点をレプロに率直に伝え、改善を求めて話し合おう、ということになりました。契約期間内はきちんと仕事をする。その上で、2年後に契約は終了するということです」

レプロとの契約書について、星野は「細かい内容は守秘義務があるので言えないが、内容が一方的だ」と言う。

「給料は世間で思われているような金額では決してない。それでいて拘束は厳しい。一方的な指揮命令関係と言ってもいい」

星野によれば、交渉時のレプロ側の反応は「『あまちゃん』で当たったからといって、要求などとんでもない」、「言った通りに仕事をしろ」というもので、何ら理解も譲歩も得られなかった、という。映画やCMの報酬など、待遇面についても、

「具体的提案をしましたが、月額報酬の増額を含め一切拒否されました。レプロが払ったと言っている『あまちゃん』のときのボーナスについては、我々は関わっていませんが、それは本来の額の一部にすぎない。

しかも、支払いを約束していたボーナスの残額は支払われておらず、約定時期を大幅に超過してようやく支払われたのです」
■実現しなかった「社長面談」

星野はレプロに限らず、日本の芸能プロダクションの、所属タレントに対する姿勢を問題視する。

「確かに、レプロは彼女にコストを掛けたかもしれない。ただ、それはビジネスだから当然のことです。

事務所に集められた全員が成功するわけではない。本人の努力や運、さまざまな要素がかかわってくる。事務所はそうして成功したタレントをうまく活用すればいい。それがマネジメントです。

しかし現状は、あたかもタレントを事務所の所有物のように扱いコントロールしている。タレントに対し、とにかく逆らうな、言った通り仕事をしろ、という発想がある」

そして双方は、すでに激減していた能年の「仕事」についても激しくやり合うことになる。

「我々が(代理人として)入ってからは、常に彼女は仕事をやりたがっていました。『仕事をください』という要求を、6回も書面で出しています。するとレプロ側は『事務所との信頼関係がない限り、仕事は与えられない』という回答を送ってきた。

『では、その信頼関係はどうやったら作れるんですか』と返すと、『社長との個人的な信頼関係がなければ仕事はあげられない』。

そして、弁護士を介さずに社長と本人の一対一で話し合いをしたいと言う。ただ、代理人がついた事件で、当事者同士が直接交渉するということは、弁護士倫理上も許容できない。到底認められなかった」

これに対して、レプロ側の主張はこうだ。

「向こう側は、『とにかく仕事を入れろ』と言ってくる。しかし、ドラマや映画の仕事だと3ヵ月や半年にわたることもある。そんな長期の仕事を、事務所との信頼関係がないタレントに入れることはできません。

彼女がブレイクしたのは、先輩たちが(同社の設立から)25年間かけて事務所の実績を築き上げてきたから。彼女がやっているのは、その実績を踏みにじるような行為です。まずやるべきは信頼関係の再構築でしょう、と答えたんです。

でも、交渉の場に彼女は最後まで出てこなかった」

「週刊現代」2016年11月5日号より

【引用元:現代ビジネス】

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