「弁護士ペニス切断事件」 背景に“法曹界の格差”と“エリートへの負い目”!? 慶應法科院生の憂鬱とは?

小番一騎

慶應義塾大学の法科大学院に在籍する24歳の男が、42歳の弁護士の男性器を切断した事件は世間に衝撃を与えた。逮捕されたのは、小番一騎(こつがい・いっき)容疑者である。元プロボクサーの肩書を持ち、2年前から、慶應の大学院に進み法曹界を目指していた。今年6月には司法試験の予備試験にも合格している。

 事件は13日午前に、弁護士の勤務事務所で起こった。小番容疑者の妻が被害者弁護士の事務所で事務員をしており、男女間のドラブルがあったと見られる。話し合いの席上、小番容疑者が弁護士を殴りつけ、意識がもうろうとした所を、持参した全長20センチ、刃渡り6センチの枝切ハサミで男性器切断。さらに、切断したモノはトイレに流してしまった。

 弁護士の男性は、企業法務を専門とし、アメリカ留学経験もあり、国際弁護士の資格も持つ。弁護士の中でもかなりのやり手であろう。エリート弁護士と、法曹を目指す法科大学院生の対比はどこか象徴的だ。

 この事件について法科大学院生はどう思うのか。今春、都内の某法科大学院を修了し、司法浪人となった玉置氏(仮名・20代後半)に話を訊いた。

「法科大学院を修了し、試験を受ける現在の新司法試験制度は2006年からスタートしました。それ以前の試験は旧司法試験と呼ばれます。現在の法曹界には旧司法試験の合格者はエリートであり、新司法試験は非エリートとみなす風潮があります。被害者の弁護士は旧試験の合格者です。加害者の大学院生にはやはり負い目のようなものはあったのではないでしょうか。慶應の大学院で学んでいる、といえば聞こえはいいですが、最終的に司法試験に受からなければどうしようもありません」(玉置氏)

 新司法試験制度では当初は修了者の7~8割を合格させる目標が立てられていた。しかし、現在は、ごく一部の優秀校を除いて、合格率は3割以下となっている。さらに、法科大学院を経由しない予備試験出身の合格者も増えている。小番容疑者も、法科大学院に籍を置きつつ今年度の予備試験に合格した。

「予備試験は、法科大学院の高額な学費をまかなえない経済的な事情がある受験者に向けた措置でした。しかし、現在は極めて優秀な上位層が法科大学院を経由せずに合格するルートとなっています。法科大学院生が予備試験を受けることもありますね。小番容疑者は、予備試験に通ったということは、かなり優秀であったということでしょう。それでも新司法試験に合格しても、非エリートというレッテルはずっとついて回ります」(前出・同)

 さらに合格後の就職先に難儀する者もいる。法曹人口が増えても、弁護士事務所の数が増えていないため、どうしても職にあぶれてしまうのだ。中には、登録した弁護士会におもむき、報酬の低い国選弁護人の仕事をもらう人間もいる。さながら法曹界の“日雇い労働”である。さらに、法テラス(法務省設置による市民への法律支援機関)に所属し、“ゼロワン地域”と呼ばれる地域(弁護士がいない僻地)での仕事をこなす人間もいる。法テラスの仕事は、自分自身の実績とはならない。高収入で、華やかな弁護士生活とは程遠い。

 小番容疑者は、20代の妻とともに中野の一軒家の一部を間借りして住んでいた。難関資格を目指す夫をかいがいしく支える妻、という姿も浮かび上がる。

「試験に受かるまで女性に支えてもらうといった人はあまりいませんね。法科大学院に進むため、恋人と別れたという人もいました。司法試験へのチャレンジは人生の大きな“賭け”ですから、他人を巻き込むわけにはいかないという覚悟ですね。その分、お互いの境遇に理解があるためか、法科大学院生同士でくっつくパターンも多いです」(前出・同)

 玉置氏の周辺では「猛勉強しているのだから自分は受かる」と思っている人間は少数派だという。むしろ「もしダメだった場合にどうするか」というリスクヘッジが重んじられている。玉置氏自身も「30歳までにダメだったら公務員試験を受けます」と述べる。

 法科大学院の高額の学費と、司法試験の低い合格率、いざ合格しても法曹では非エリート扱い――とても割に合っているとは言えない。その中でも小番容疑者は、難関と言われる予備試験を突破し、夢であった法曹の道へ近づいている最中であった。将来を投げ打ってでも彼を凶行へ走らせた理由は何なのか――その背景には法科大学院生の憂鬱も見いだせそうだ。

【引用元:トカナ】

関連記事

コメントを残す

お問い合わせ | 運営者について